うたうひと

酒井耕・濱口竜介監督

東北記録映画三部作 第三部

2013年製作|ドキュメンタリー|日本語|カラー|120分|出演:伊藤正子・佐々木健・佐藤玲子・小野和子(みやぎ民話の会)|監督:酒井耕・濱口竜介|撮影:飯岡幸子・北川喜雄・佐々木靖之|整音:黄永昌|グレーディング:定者如文|製作者:芹沢高志・相澤久美|製作:一般社団法人サイレントヴォイス|宣伝:佐々木瑠郁・Playtime|製作助成:文化芸術振興費補助金・公益財団法人 全国税理士共栄文化財団|製作協力:せんだいメディアテーク<3がつ11にちをわすれないためにセンター>・みやぎ民話の会|機材協力:東京藝術大学映像研究所・合同会社epigraph

NEWS最新情報

About作品紹介

『うたうひと』は 酒井耕・濱口竜介監督による『なみのおと』『なみのこえ』に続く東北三部作の第三部。二人は前二作における「百年」先への被災体験の伝承という課題に対して、東北地方伝承の民話語りから示唆を得る。栗原市の佐藤玲子、登米市の伊藤正子、利府市の佐々木健を語り手に、みやぎ民話の会の小野和子を聞き手に迎えて、伝承の民話語りが記録された。語り手と聞き手の間に生まれる民話独特の「語り/聞き」の場は、創造的なカメラワークによって記録されることで、スクリーンに再現される。背景となった人々の暮らしの話とともに語られることで、先祖たちの声がその場に甦る。映画と民話の枠を超えた、新たな伝承映画が誕生した。

Storyあらすじ

雪の降りしきるある日、宮城県栗駒山にある山荘で三人の語り手(伊藤正子、佐々木健、佐藤玲子)と民話研究者の小野和子による民話の語り聞かせが行われる。農家の手助けをした猿に嫁入りに行った娘が残酷な結末をもたらす物語や、ひょんな事から鼠の巣穴に入った事で富を持ち帰る話など、方言の抑揚豊かな各々の語り手が順に民話を披露する一方、積極的な聞き手としての姿勢を示す小野和子が民話への考察を行う。中盤から各話者の自宅で一対一の語り聞かせが始まり、彼らが民話の語り手となった所以や、幼い頃の情景などを織り交ぜながら、民話が語られ、人々にとってそれが如何に大切なものであったかが明らかになる。後半、季節の変わった栗駒荘で再び「みやぎ民話の会」による語り聞かせが行われ、民話が現在の人々に親しまれる様子が描かれる。民話の語られる背景への考察なども含め十数話を収録。

Trailer予告篇

Director's Noteディレクターズノート

「語り、聞く」ということが成立するには、語り手に普段とは違うもうひとつの人格を求めるような所があるように思うのですが、聞く方も同じだと思うんですね。つまり、語る方が一の力をお出しになったら、聞く方が三ぐらい出して、もうひとつの自分をそこでつくりだしていかなくちゃならないように思います。それが具体的にどういう方法かというと、うまくは言えないんですが。

私は折口信夫の本から時々に学ぶのですが、古代の人たちは、訪ねて行って、門まで行ってすぐその場で帰る人間をものすごく卑しい者とした。やっぱり中に入って、そこで融合して解け合って、もらったり与えたりしたときに、人間の喜びと創造があるという意味の事を書いておられるんです。たしかに私たちも語り手を訪ねていったとき、明らかに他人であり、他所者なんです。だから、門の前から引き返す、これは精神的な意味合いなのですが、門の中に身体は入れていただいても、引き返す姿勢でしか聞けない者もいる。聞くふりをすることしかできない者もいる。だから、門の中に入るということは、そこで門をくぐったときに、自分を変えなくてはならないんですよ。どういうふうに変えるかって言われても、そこはもう、聞き手の感性によるよりしょうがないのですけどね。

「語る」と「聞く」ということの間に成立する空間というものは、実はものすごく神秘的なものがあるような気がします。それを許された語り手と聞き手の間にだけ成立した空間で、そのふたりにだけが共に門の内にあって味わうことのできるもの。そういう瞬間を感じることは、時々あります。そういうとき、自分がそこでカタルシス(浄化)されているような気がします。

小野和子
1934年岐阜県高山市生まれ、1958年より宮城県仙台市在住。東京女子大学日本文学科卒業。
1970年から宮城県を中心に東北地方の民話採訪活動、民話集の編集・編纂に従事。みやぎ民話の会顧問。日本民話の会運営委員。1993年宮城県児童文化おてんとさん賞受賞。2004年地方教育行政功労者文部科学大臣表彰。

2012年1月13日 3がつ11にちをわすれないためにセンター/スタジオにて
出典:せんだいメディアテーク機関誌 ミルフイユ4 mille feuille4  赤々舎

酒井耕/SAKAI Ko

1979年長野県生まれ。映画監督。現在の活動拠点は東京。東京農業大学在学中に自主制作映画を手掛け、卒業後、社会人として働いた後、2005 年に東京藝術大学大学院映像研究科監督領域に入学。修了制作は『creep』(2007年)。『ホーム スイート ホーム』(2006年)、濱口と 共同で東北記録映画三部作『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』を 監督。

濱口竜介/HAMAGUCHI Ryusuke

1978年神奈川県生まれ。映画監督。現在の活動拠点は神戸。東京大学文学部 を卒業後、映画の助監督やテレビ番組のADとして働いた後、2006年に東京藝 術大学大学院映像研究科監督領域に入学。修了制作は『PASSION』。劇映画 としては『親密さ』(2012)、『不気味なものの肌に触れる』(2013)を監 督。2011年~2013年にかけては東北記録映画三部作『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』を酒井と共同で監督した。

Theater上映履歴

地域 劇場名 主催 公開日
京都 宇治市中央図書館 おはなしたまてばこ 2015年3月31日
東京 P3 art and environment P3 art and environment 2015年3月22日
東京 世田谷区烏山区民会館 おはなしの泉 2015年3月15日
東京 練馬区立貫井図書館 練馬区貫井図書館 2015年2月21日
宮城 オーリンクハウス 特定非営利活動法人雄勝まちづくり協会 2015年2月11日
島根 隠岐アートトライアル実行委員会 2015年1月31日
兵庫 デザイン・クリエイティブセンター神戸 加川広重 巨大絵画が繋ぐ東北と神戸プロジェクト実行委員会 2015年1月18日
宮城 富谷町中央公民館 みやぎ民話の会 2014年11月29日
静岡 静岡文化芸術大学 静岡文化芸術大学 2014年11月26日
東京 新宿K’s cinema ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2014 2014年11月20日
岡山 cafe moyau 個人 2014年3月2日
渋谷 渋谷アップリンク 2013年11月16日~
東京 オーディトリウム渋谷 2013年11月9日~
東京 江東文化センター おはなしパレット 2013年9月22日
福岡 春日市ふれあい文化センター <きりん文庫かすが 2013年9月20日
東京 八王子市生涯学習センター 八王子おはなしの会 2013年9月7日
>東京 練馬区立貫井図書館 ねりまおはなしの会 2013年7月19日
>東京 立川市女性センター NPO語り手たちの会 2013年6月30日
福島 ビックパレット福島 特定非営利活動法人 語りと方言の会 2013年5月26日
東京 オーディトリウム渋谷 ImageFukushima実行委員会 2013年3月5日
沖縄 琉球大学 Cimarcus 2014年10月4日
沖縄 沖縄大学 Cimarcus 2014年10月5日

Commentaryコメント

真正面に据えられたカメラによって、家族が、友人たちが、同僚たちが、語り手と聞き手が、それぞれの声と顔を持ったひとりの人間へと分割されていく。それが感動的なのは、そこで「他の誰でもないその人そのもの」が映しだされるからではない。そうではなく、対話相手との間合いや呼吸が、彼らの関係性が、ひとつの顔の中に描きこまれていくからなのだ。パーソナルな物語を語る彼らの声と顔ひとつひとつに、歴史や約束、愛といったソーシャルなものが既に織り込まれているからなのだ。

結城秀勇/YUKI Hidetake

映画批評/雑誌「nobody」編集部。同誌24号から36号まで編集長。共編著に「映画空間400選」(LIXIL出版)